『ぬすまれたリボンのなぞ』
音宇作
 
 コトノちゃんは「ほうおう」の子どもです。その「ほうおう」というのは中国のでんせつにでてくる鳥で、からだが火でもえているというのです。あ、こう書くとコトノちゃんって、なんだかこわそうにきこえるかもしれませんね、でも、コトノちゃんは、じつはとってもかわいい、そしてとってもキュートな女の子なのです‥‥。
 
 朝です。
 「あー、よくねむったワ」
 コトノちゃんは、カーテンのすきまからもれてくるまぶしい光に目をぱちくりさせると、大きくのびをしたついでに、おもいっきりくちばしを開いて「ふワー」とあくびをもらしました。
 きょうは五月の土よう日、そしてきょうはコトノちゃんにとって、とってもたいせつな日‥‥そう、きょうコトノちゃんは、生まれてはじめて西京ごくへ、サンガのおうえんをするおしごとに行くことになっているのです。
 サンガというのは、本当の名前は『京都パープルサンガ』といって、Jリーグのサッカーチームです。そのチームマスコットにえらばれてコトノちゃんはびっくり!このチームマスコットのおしごとは、サンガができたときから、おともだちの男の子のパーサくんがしていたのですが、こんどもう一人ふやすことになって、サンガの柱谷かんとくがコトノちゃんのところへたのみに来たのでした。
 コトノちゃんのいる『ほうおうみなみ小学校』の二年三組では、おともだちの女の子たちがみんな、コトノちゃんのことをうらやましがっています。
 「いいなあ、わたしもえらんでほしかったよう」
 「でもコトノちゃん、やっぱりいちばんかわいいもんね、とくにそのリボン、すっごくにあってる」
 「せっかくえらばれたんだもん、わたしたちのぶんまでがんばってね!」
 たんにんのハライ先生もコトノちゃんをげきれいします。
 「サンガがかてるように、しっかりおうえんしてくるんだぞ」
 そんなクラスのみんなのきたいをいっしんにせおってむかえた土よう日の朝、
 「さあ、がんばらなくっちゃ!」
 コトノちゃんはふとんを「えいっ」とはねのけてとびおきると、せんめんじょのかがみの前へむかいます。
 かがみをのぞくと、まず、顔をあらってくちばしみがき(鳥には歯はありませんからね)。そしておでこにチャームポイントのおっきなリボンをつけます。
 「ハイ!これでいいワ」
 ウンとひとつうなづくとコトノちゃんは、かがみにむかってにっこり笑いました。そのおでこにはおきにいりの、あざやかなみどり色をしたリボン‥‥ん?あれれれれ、おかしいぞ、コトノちゃんのリボンはたしか黄色のはずでは‥‥?
 はい、もちろん、そう。でもコトノちゃんのリボン、じつは、はじめはみどり色だったんだよ。でも、それが黄色にかわっちゃったわけは‥‥それはこの物語をさいごまで読めばわかるはず、だからそのせつめいはちょっとまってくださいね。
 というわけでリボンもつけたし、おうえんのためのむらさきのTシャツをきて、コトノちゃんはさっそうと、おうちをとび出しました。
 めざすは「ほうおうみなみ小学校」。試合はお昼からなので、それまでの時間、コトノちゃんはここでパーサくんたちと、おうえんの練習をすることになっているのです。
 『パーサくん、もう来てるかな?ひょっとして学校についたら、二人っきりだったりして‥‥』
 学校への道を急ぎながら、コトノちゃんは心の中でそっとつぶやきます。そう、コトノちゃんにとってパーサくんは、ちょっと気になる男の子なのです。
 道のむこうに「ほうおうみなみ小学校」が見えてきました。校庭の大きなイチョウの木がコトノちゃんをむかえます。このイチョウの木にはパーサくんとのステキな思い出が‥‥コトノちゃんが、一年生だったころのことをちょっと思い出しそうになった時、
 「あっ、コトノだ!おまえ、あいかわらず、おっかしなリボンつけてるなあ」
 見ると校門のところにいじわるそうな男の子が三人。よそのサッカーチームのマスコットたち、ベガルタ仙台のワシのベガッ太、川崎フロンターレのイルカのふろん太、そしてサガン鳥栖のカラスのウイントスです。
 でも三人は学校もちがって、とおくにすんでいるはず。
 「あらっ?どうして、あんたたちがここに?」
 コトノちゃんがきくと、
 「ふん、おれたちゃ、きょうは試合がないからな。だから、ちょっくら、おまえの練習を見にきてやったのさ」
 ベガッ太がニヤリと笑ってこたえました。三人とも何となく悪いことをたくらんでいるようにも見えます。
 「ちょっと、そこどいてよ!」
 コトノちゃんは三人の間をすりぬけるようにして、学校の中に走りこみます。
 校門を入って右に行くとそこは二年生のオープンスペース。
 「あ、コトノちゃん、お早う、きょうはがんばろうね!」
 オープンスペースにはパーサくんがもう来ていて、じゅんび体そうをはじめています。
 「うん、がんばるワ!」
 大好きなパーサくんに会えて、コトノちゃんはさっきのいやな気もちなんかふきとんでしまいました。
 かるくじゅんび体そうをすませると、パーサくんといっしょに三かいにある体育館にむかいます。体育館にはいつのまにかたくさんの人間のちびっ子たちが来ていて、コトノちゃんたちといっしょに、きょうのおうえんのためのとくべつのふりつけを練習することになっています。
 「きっと、あせだくになるから、リボンは取っておくワ」
 そう言ってコトノちゃんはおでこから大きなみどり色のリボンをはずすと、体育館のすみにあるベンチの上におきました‥‥。
 
 ララーラーラララ、マツイ!
 くろべー、くろべー、サンガのくろべー!
 
 おうえんの歌にあわせてパーサくん、コトノちゃん、そしてちびっ子たちがむちゅうでおどります。
 「じゃあ、ぼくはさきに行くからね」
 練習がいちだんらくした時、パーサくんが体育館を出て行きました。パーサくんはさきにきょうの試合がある西京ごくに行って、会場の人とおうえんのうちあわせをすることになっているのです。
 「行ってらっしゃーい!」
 パーサくんをえがおで見おくると、コトノちゃんとちびっ子たちはまた練習にもどります。
 
 ララーラーラララ、マツイ!くろべーくろべー、サンガのくろべー!
 
 ‥‥さて、十一時。そろそろコトノちゃんたちも出発しないといけない時間です。
 「さあ、それじゃあ、リボンをつけてっと‥‥」
 コトノちゃんは顔のあせをタオルでごしごしぬぐいながら体育館のすみにあるベンチにむかいます。と、さっきパーサくんの出て行った体育館のとびらが開いたままになっているのに気づきました。
 (あらっ?さっきパーサくんが出て行ったとき、閉めわすれたのかな?)
 そう思いながらベンチのうえに目をやると‥‥、
 「な、ないっ!ここにおいといたリボンがないワ!」
 さあ、こまったことになりました。コトノちゃんのチャームポイント、あのおでこの大きなリボンがなくなってしまったのです。
 「コトノちゃん、どうしたの?」
 そうきいてきたのはいっしょにおうえんの練習をしていたトミ太というちびっ子でした。コトノちゃんのまわりにはいつのまにかたくさんのちびっ子たちがあつまってきています。
 コトノちゃんはみんなにリボンがなくなったことをせつめいします。
 「そういえばあたし、さっき練習中に、あの開いたとびらから、ワシのベガッ太がかおをのぞかせているのを見たわ」
 「ぼくは、イルカのふろん太を見た」
 「たしか、カラスのウイントスものぞいてたぞ」
 さてさて、ちびっ子たちの話からすると、どうやらその三人のうちのだれかがリボンをぬすんだということのようです。
 と、
 「あれっ、ここにへんな紙きれがおちてる‥‥」
 そういってトミ太くんがそれをひろいあげました。その紙きれにはこんなことがかかれています。
 
 教室の上にある海は、
 はれの日には一ばん空がよく見えるぞ。
 とってもたっぷりの水のむこうにはリボンが‥‥
 
 『かいとうモンス』より
 
 (かいとうモンス!その正体は『○○○○○かも?』)
 
 「何よ、これ?」
 コトノちゃんが首をかしげます。と、トミ太くんがエヘンとせきばらいをして、
 「これ、きっと、ぬすんだ犯人からの手紙だよ。そしてこの文の中に、リボンをどこにかくしたかのヒントがかくされているんだ」
 自信まんまんに言って、文章のはじめのところをゆびさしました。
 「ほらっ、ここに『教室の上にある海』ってかいてあるでしょ?これって何のことかわかる?」
 コトノちゃんは首をかしげて一生けんめい考えます。
 「ウ〜ン、でも海が教室の上にあるわけないじゃない?それに『はれの日に空がよく見える』なんて、海の上には空が見えてるにきまってる。だから、トミ太くん、これってきっとただのいたずらで、でたらめにかいた文章にちがいないワ」
 「でも、ホントの海じゃなくて海みたいにたっぷりと水のある、およげるところってことかもしれないよ。それで、そのばしょからは、はれだと空がとくによく見えるんだ」
 トミ太くんに言われて、コトノちゃんはもういちどよく考えてみようとうで組みをして上を見上げました。
 
 (さあ、みんなもリボンのかくしばしょがどこか、コトノちゃんといっしょに考えてみよう!ヒントはまず、さっきの文をよくよむこと、そしてもうひとつ、さっきの文をよく見ることだよ!)
 コトノちゃんはうでぐみをして、上を見上げます。上、上、上‥‥教室の上には?
 「あっ、ひょっとして‥‥プール?」
 そうです、ほうおうみなみ小学校の一番上の四かいにはプールがあって、しかもそのプールのやねは、その日の天気でひらいたりとじたりすることができるのです。だからはれの日にはやねがひらいていて、空がとくによく見えるということなんですね。
 でもコトノちゃんはまだすこしなっとくがいかないようす。
 「う〜ん、でもホントにこの文章、プールのことをさしているのかなぁ、もうちょっとよく考えてみないと‥」
 トミ太くんが言います。
 「何言ってんだよ、それで正解にきまってるよ!ほらっ、その文章をよく見てよ、ちゃんと『ぷーる』って書いてあるでしょ?」
 「えっ?ど、どこに?」
 「まあまあ、そんなことはあとであとで。それよりたいせつなのは早くリボンを見つけること!」
 そう言うとトミ太くんは紙きれをポケットにしまって、体育館をとびだしかいだんのほうへ。
 「あっ、ちょっ、ちょっとまってよぉ!」
 コトノちゃんもあわててあとをおいかけました。
 四かいへのかいだんを上がると、そこはもうプールの入り口。まだ五月なのでプールにはだれも入っていなくて、そのため、お天気はいいけどやねもひらいていません。
 「さっきの紙きれには、たしか『とてもたっぷりの水のむこうにはリボンが‥』と書いてあったよね」
 トミ太くんが、まるで名たんていコナンになったような口ぶりで言います(じつはトミ太くんはコナンの大ファンです)。と、
 「あーっ、あれ!」
 コトノちゃんが大声をあげてプールのむこうがわを指さし‥じゃなかった、はねでさししめしました。見るとそのむこうがわのプールサイドには、みどり色をしたひものようなものがおちています。
 「わたしのリボンだワ‥‥」
 でも、取りに行こうにも、こまったことにプールのりょうがわには、まだプールがはじまっていないからでしょうか、古くなってすてるつもりのつくえやいすが、冬のあいだにいっぱいつみ上げられていて、通れなくなっています。
 すると‥‥ああっ!コトノちゃんがいきなりはねをひろげました。そして、
 「う、うわっ、何すんだよっ!」
 バサバサバサバサッ
 おどろいているトミ太くんをせなかにのせると、コトノちゃんは赤いはねを大きくはばたかせて、プールの上をいっきに向こうぎしへととびこえたのです。
 「コ、コトノちゃんって、とべるんだ‥‥」
 ぶじ向こうぎしについて、せなかからおりながらつぶやくトミ太くんにコトノちゃんがこたえます。
 「鳥だもの、あったりまえでしょ!」
 「ってことは、もしワシのベガッ太かカラスのウイントスが犯人だったとしたら、きっと同じようにプールの上をとびこえて、ここにリボンをはこんだってことだよね。そしてもしイルカのふろん太なら‥‥」
 「プールをおよいでこちらまできたってことかな、あら!たいへん、このリボン、あながあいちゃってるワ!」
 コトノちゃんがきゅうに泣きそうな顔になりました。見るとリボンのちょうどまん中あたりが三角形のかたちにやぶれています。
 「あ、このあなのかたちは!」
 しばらくそのリボンのやぶれ目をじっと見ていたトミ太くんは、何かひらめいたようにポンと手をうちあわせます。
 「そうか、わかったぞ!このあな、そしてさっきのかみきれにかいてあった(かいとうモンス!その正体は『○○○○○かも』)という文章、そこから考えると犯人は‥‥」
 トミ太くんが言いかけたその時、プールの入り口のあたりがきゅうにさわがしくなって、そこにおおぜいのちびっ子にかこまれてベガッ太、ふろん太、ウイントスの三人がすがたをあらわしました。
 ちびっ子たちは三人にむかって口ぐちに「コトノちゃんのリボンを返せ!」、「どこにかくしたのかはくじょうしろ!」とさけんでいます。
 そのようすを見て、コトノちゃんはいそいでトミ太くんをせなかにのせると、バサバサバサッとプールの入り口のほうへとんでもどりました。
 ベガッ太が言います。
 「やい、コトノ!このチビどもをなんとかしろよ、おれたちが、おまえのリボンをかくしたって言って、うるさくてたまんねえんだよ!」
 コトノちゃんは三人にむかって、おこったようにやぶれたリボンをさしだします。
 「ほらっ、リボンは見つかったワ、そしてあなたたちは、体育館でチビッ子たちにもくげきされてる‥‥とすれば、あなたたちのうちのだれかのしわざと考えるのがとうぜんでしょ!」
 こう言われて、三人もまたおこったように首をふります。
 「ふん、おれたちゃ、だれもそんなことやってないぜ!」
 「そうだそうだ、かってなそうぞうできめつけないでもらいたいね!」
 「おれたちのだれかがやったっていうんなら、しょうこを見せてもらおうじゃないか」
 三人のけんまくにコトノちゃんがちょっとタジタジになったそのとき、
 「だれが犯人かは、もうわかってるよ!」
 トミ太くんが、またまたコナンみたいに気どって言いました。見るといつのまにかメガネまでかけています。どうやら、ふんいきを出したくてだれかにかりたようです。
 「なんだと、おいチビ!それじゃあだれが犯人か、聞かせてもらおうか」
 ベガッ太のことばに、トミ太くんはコトノちゃんの手からリボンをうけとると、やぶれめがよく見えるようにして顔の前にひろげます。
 「ほら、このリボンの三角形のやぶれめ、これってどうしてできたんだとおもう?これはきっと犯人がリボンをプールの向こうがわにはこぶときにできたんだ。さっきコトノちゃんのせなかにのっているときに思いついたんだけど、むこうぎしに行くには、とんで行くにせよ泳いで行くにせよ、リボンをもったままだとじゃまになる。じゃあどうするかっていうと口にくわえていくしかないのさ。だからそのとき、強くくわえすぎてリボンがやぶれてしまったと考えられるんだ。でもこのやぶれめは三角形‥‥イルカの口のかたちじゃないよね、どうやら鳥のくちばしのようだ。とすれば犯人はワシのベガッ太かカラスのウイントスのどちらかということになる‥‥」
 トミ太くんがここまで言ったとき、ベガッ太たち三人がゲラゲラ笑い出しました。
 「な、なにがおかしいの?」と、コトノちゃん。
 でも、ベガッ太たちはそれにはこたえず、いきなり自分たちの首のりょうがわに手をかけます。そして、な、な、なんと!三人がうでをもち上げるとその首がスポッととれて、人間のおじさんの顔が三つあらわれたではありませんか!
 ベガッ太‥あ、いや、ベガッ太の中に入っていたおじさんが言います。
 「プールの上をとんでいっただって?へっ、おれたち人間がとべるわけなんかないぜ」
 トミ太くんもこれにはびっくり。
 「きぐるみだったのか‥‥」
 そう、サッカーチームのマスコットってふつうは中に人間が入っています(これを『きぐるみ』といいます)。きぐるみじゃない本もののほうおうがマスコットをしているなんて、二十八チームあるJリーグの中でもパープルサンガだけ!でもトミ太くんもコトノちゃんも、自分がおうえんしているサンガのことしかしらなかったから、ぜんぶが本ものだと思いこんでいたのです。
 気をとりなおしてトミ太くんが言います。
 「た、たしかに、とんでいけないのはわかったよ。でも、ぼくは犯人の名前を言うことができるぞ。なぜって、さっき体育館におちていた紙きれに、だれが犯人かの手がかりがかくされていたんだ」
 言ってトミ太くんはポケットから紙きれをとりだします。
 「ほら、ここのところ‥‥(かいとうモンス!その正体は『○○○○○かも?』)って書いてあるでしょ?そこで、この『かいとうモンス』っていう字をならべかえると‥‥」
 (みんなも考えてみてね!)
 トミ太くんのことばをさえぎって、コトノちゃんがさけびます。
 「あっ、そうか!『かいとうモンス』って、ならべかえると『ういンとスかモ』‥‥『ウイントスかも』になる!」
 「そう、そのとうり。だから犯人はサガン鳥栖のキャラクター、カラスのウイントスのきぐるみをきているおじさん、あなたですよ!」
 トミ太くんがウイントスの中のおじさんをゆびさして、かちほこったように言いました。コトノちゃんも、よこで大きくうなづいて、そのおじさんをにらんでいます。と・こ・ろ・が、かんじんのウイントスのおじさんはなんだかポカンとした顔で言います。
 「えーっ?‥おれがやったって?‥でもおれ、そんな紙きれ見たこともないし、だいいち、もしおれが犯人だとしたら、そんな自分の名前がばれるようなことを、わざわざ書いておくかなあ?それにおれ、空とべないんだけど、どうやってプールのむこうぎしに行ったっていうわけ?」
 「そ、それはもちろん、プールの中をおよぐか歩くかして‥‥」
 トミ太くんは何だか自信がなくなってきました。
 と、ベガッ太のおじさんが、
 「おれたちゃ、三人ともプールには入ってないぜ」
 言って、きぐるみをぬぎはじめました。ほかの二人も同じようにします。するとどうでしょう、きぐるみの中から出てきた三人のうでや足やおなかには、絵のぐをつかって人の顔や動物たちの絵が、とてもじょうずにかかれています。
 「じつはな、おれたちゃマルチタレントで、試合のない今日は、これからきぐるみをきないでするアトラクションのしごとがあるのさ。それで、朝、せんもんの絵かきさんに、この絵をかいてもらったんだ。体にちょくせつ絵のぐでかいてもらってるから、もしプールに入ってぬれたりしたら絵がきえてしまうし、もしきえてしまったら、こんなにじょうずにかきなおせるはずがない。だから、おれたちがプールに入らなかったのはたしかだってことになるわけさ」
 「う〜ん‥‥:」
 ベガッ太のおじさんのせつめいをきいて、トミ太くんもコトノちゃんもあたまをかかえてしまいました。と、そこへ、ばたばたっと足音がして、だれかがかいだんをかけ上がってきます。
 「おーい、なにをのんびりしてるんだよう」
 そのこえはハライ先生です。
 「さっき西京ごくからでんわがあって、コトノちゃんはまだこないのかって、しんぱいしてたぞ!」
 「あーっ、たいへん!」
 そう、たいへんです。キャラクターのおじさんたちと言いあっているうちに、もうすぐサンガの試合がはじまる時間になってしまっていたのです。
 
 「もう、リボンなしで行くしかないワ」
 コトノちゃんはそう言うと、はねを大きくひろげます。
 「ハライ先生!おねがい、やねをあけて!」
 「よしきた!」
 ハライ先生がプールサイドのかべにあるボタンをおすと、プールのやねがゆっくりとひらきはじめます。
 バサバサバサバサッ
 コトノちゃんは、やねがじゅうぶんにひらくのもまちきれずに、プールサイドをとび立ちます。
 「コトノちゃーん、しっかりおうえんしてきてね!」
 見上げてさけぶトミ太くんに、コトノちゃんはふりむいて手、じゃなかった、はねをふると、やねをぬけて京都の空たかくまい上がりました‥‥
 
   ☆   ☆   ☆
 
 西京ごくでは柱谷かんとくやサンガの選手たち、それにかんきゃく席の大ぜいのサポーターの人たちが、コトノちゃんの来るのをしんぱいそうにまっています。
 「はじめてだから、きんちょうして、おなかいたくなっちゃったのかなぁ、ねえ、パーサくん、どう思う?」
 大ベテランのミニラ選手の問いかけに、
 「う〜ん‥‥ほんとに‥‥いったい、どうしちゃったんでしょうねぇ‥‥」
 あれれ?パーサくんのへんじも、なんだかちょっとビミョーです。
 と、
 「あっ、あれは!」
 サポーターのひとりが空をゆびさしました。その空の向こう、晴れわたった青空にしみのように小さな赤い点があらわれたと思ったら、その点がぐんぐん大きくなっていきます。そして‥‥
 バサバサバサバサッ
 「来た!コトノちゃんだーっ!」
 かんきゃく席の子どもたちがさけびます。
 「ごめーん、お・ま・た・せ」
 みどりのしばふがまぶしいグランドのまん中におり立つと、コトノちゃんはかんきゃく席の方に向かって、大きなかた目をバチッとつぶってウインクをしました。そして、こしに手、いや、はねを当てるといつものきめポーズ。
 でも、
 「あれーっ?コトノちゃん、リボンしてないぞ?」
 「ほんとだ、一体どうしたんだろう?」
 ふしぎそうな顔でサポーターたちがざわめいています。
 「ウン、じつはネ‥‥」
 コトノちゃんがせつめいしかけたとき、
 「コトノちゃん、ちょ、ちょっとこっちに来てよ」
 とつぜん、パーサくんがコトノちゃんのTシャツのすそを引っぱったと思ったら、グランドをよこぎって、SSメイン席の下にあるひかえ室までつれて行きました。このひかえ室というのは、ふたりがきがえをしたり、おけしょうをなおしたりする『がくや』のようなところ。
 「パーサくん、一体どうしたの?」
 ひかえ室に入って向き合うと、コトノちゃんがたずねます。
 「そ、それが、じつは‥‥」
 パーサくんは答えにくそう。そのようすを見てコトノちゃんは、
 「えっ、ひょっとして‥‥エエーッ、ま、まさか?」
 そう、そうなんです。コトノちゃんのリボンをぬすんだ犯人、それはパーサくんだったのでした。
 パーサくんは、コトノちゃんのみどり色のリボンがあまりにあってないと思って、それでもっとよくにあうリボンをプレゼントしようと思い、ちょっといたずらのつもりでみどりのリボンをプールにかくしたのだそうです。だから見つけやすいように、ヒントとなるおき手紙をのこしてあったのですね。ところが、プールの向こうへリボンをくわえて行くときに、うっかりくちばしで三角形のあなをあけてしまったのでした。
 「ごめん!体育館にあやまりにもどろうと思ったんだけど、時間がなくて‥」
 このいがいななりゆきに、コトノちゃんはびっくり。
 「でも‥‥でもパーサくん、わたしにはみどりのリボンがにあうだろうって言ってくれたじゃない‥‥」
 「えーっ?ぼく、そんなこと言ってないよ」
 「だって、ほら、一年生の冬休みに、ほうおうみなみ小学校の校ていで‥‥」
 はい、それはきょ年の冬休みのこと‥‥、家でたいくつしていたコトノちゃんが学校にあそびに行くと校ていにはパーサくんだけ。
 『あっ、コトノちゃん、ちょうどよかった。ぼくひとりなんだ、いっしょにあそぼうよ!』
 大すきなパーサくんに言われてコトノちゃんの顔はまっ赤(‥‥といっても、もともと赤いからぜんぜんわからないけど)。そして校ていのすみの大きなイチョウの木の下であそんでいるときに、パーサくんがこう言ったのです。
 『イチョウのはっぱって、ふたつくっつけるとリボンみたいな形になるよね、コトノちゃんも、おでこにそんなリボンをつけると、きっとにあうだろうな』
 もちろんそのときは冬だったので、はっぱは木に一まいもついていません。でもコトノちゃんは、そんなパーサくんのことばをおぼえていて、春になってイチョウがみどり色のはっぱをたくさんつけるころになると、さっそく、同じ色のリボンをかってきて、おでこにつけるようになったのです。
 コトノちゃんの話をきいて、パーサくんが言います。
 「ちがうよちがうよ、ぼくはあのとき、秋のきいろいはっぱのことを言ったんだよ」
 「なーんだ、そうだったの」
 ふたりはしばらく大わらい。
 「さっきはベガッ太のおじさんたちのこと、うたがったりしてわるいことしちゃったワ、あとであやまっとかなくちゃ」
 わらいがおさまったところで、パーサくんが何かをコトノちゃんの方へさしだしました。
 「これ、つけてみて‥‥」
 それは大きな黄色のリボンでした。さっそくコトノちゃんはおでこにつけてかがみの前に行きます。
 「うワー、とってもにあってる!ホント、みどりのよりずっといいよね。パーサくん、ありがとう!」
 コトノちゃんは大よろこびです。
 と、
 パパパパパパーン
 ファンファーレがなりひびいて選手の入場です。
 「さあ、行かなきゃ!」
 ふたりはおおいそぎでひかえ室をとびだすとグランドのまん中へ。
 きょうの相手は強敵、大宮アルディージャ。フォワードのバレー選手が要注意人物です。
 そしてしんぱんのふえがピーッとなると、いよいよキックオフ。
 
 ララーラーラララ、マツイ!
 くろべー、くろべー、サンガのくろべー!
 
 パーサくんとコトノちゃん、そしてサポーター席にはおくれてやって来たトミ太くんをはじめとするちびっ子たち、みんな一生けんめいのおうえんです。ところが、
 キャーッ
西京ごく全体がひめいにつつまれました。サンガディフェンスのいっしゅんのすきをついて、大宮のせいたかのっぽのフォワード、バレー選手がゴールをきめてしまったのです。まだはじまりから五分もたっていません。
 「だいじょうぶよ、おちついて」
 コトノちゃんは選手たちのいるグランドをいっしんに見つめながらつぶやきます。そしてその五分後、
 「やったぜーっ!」
 こんどは西京ごくは大かんせい、サポーター席の人たちがとびあがってよろこんでいます。そう、みかみ選手の上げたクロスにチェヨンス選手がヘディングで合わせると、ボールは大宮のゴールキーパーのよこをすごいスピードでぬけていってゴールネットをゆらしたのです。
 同点!いっきにサンガの選手たちのうごきがよくなってきました。そしてむかえた三十分、こんどは黒部選手が熱田選手のスルーパスを、相手キーパーのうごきをじょうずにかわしてキック、ゴ〜〜〜〜〜〜〜ル。さらに前半がおわろうとする四十分には松井選手のきょうれつなボレーシュートもきまって三対一!どうやら、きょうは勝ち点三をゲットできそうなふんいきです。
 
 「パーサくん、ひとつききたいことがあるんだけど」
 もうすぐはじまるハーフタイムにそなえて、SSメイン席下の出口にならんで出番をまっていたコトノちゃんが言います。
 「あの、体育館にあった紙きれにね、『かいとうモンス』よりってかいてあったけど、かいとうモンスってパーサくんのことだったの?」
 パーサくんはちょっときまりわるそうにわらうと言いました。
 「そうだよ、そのよこに(かいとうモンス!その正体は『○○○○○かも?』)ってかいてあったよね?じつはあの五つのまるのところは『パーサくんかも?』っていう字が入るんだ」
 「でも、かいとうモンスって‥‥」
 「うん、モンスっていうのはぼくがモンスターみたいだからそんな名前にしたんだ」(う〜ん、そういえばパーサくんってポケットモンスターに出てくるファイヤーににてますよね)
 「なあんだ、そうだったの!じゃあもうひとつだけ‥あの紙きれを見たときに、トミ太くんっていう推理のすきなちびっ子が、この文章をよく見ると『ぷーる』ってかいてあるって言ってたんだけど‥‥」
 こんどは、パーサくんはニヤリっとわらって答えます。
 「うん、そう。あの文をよく見るとほらっ、まん中あたりに‥‥」
 コトノちゃんは紙きれにかいてあった文章を思い出してみたけどよくわかりません。
 「えーっ、わかんない」
 「だから、いちばん上の文字から冨田選手のせばんごうと同じかずだけ下にかぞえてみてよ、それをよこによむと‥‥」
 ピーーーーーーッ
 ピッチに前半のおわりをつげるホイッスルがなりわたります。そしてそのしゅんかん、ふたりはもう今はなしていたこともわすれて、いそいでハーフタイムのアトラクションへとかけだして行ったのでした。
 
                           (おわり)
 
《コトノちゃんすいりげきじょう》
(小学二年生むき)
 
※この作品は発表用ではなく、本当は個人的に書いたものであるため、一般的でない部分があります。